国沢光宏のホットコラム

Vol.95 洪水後のタイの現状


 2ヶ月間にわたったタイの洪水も、やっと収束の兆しが見えてきた。改めて実感したのは日本とタイの関係の深さである。驚くほど多くの製品や部品をタイの工場で生産していた、ということです。12月上旬にタイに渡り調べてきた内容を交え、現時点で解ってきたことと、今後の状況をレポートしてみたい。

 まず最も大きな被害を出したホンダのアユタヤ工場から。横を流れるチャオプラヤ川本流の水位上昇により、水が堤防を乗り越えて工業団地に流れ込んだ。アユタヤ工場は完成車の組み立てだけでなくアジアや他の地域に対し部品の供給も行っており、世界規模での生産調整に至った。

 今回日本の企業が大きな余波を受けた理由はここに集約される。東日本大震災で被災した工場の多くが「日本でしか生産できない高機能部品」を作っていたため、代替部品の供給に手間取った。タイはその逆。世界中で使われる安価で良質な構成部品を大量に生産していたのである。


 例えば半導体の集積回路には必ず『抵抗』という部品を使う。極めてシンプルな構造のため、日本の工場で生産したらコスト的に合わない。そんなことから世界中で使われる自動車用の『抵抗』の半分くらいが、水没したタイの工場で生産されていたのだった。

 タイで生産されている部品の多さときたら驚くほど。自動車産業だけでなく、電化製品、電子部品、カメラやメガネのレンズ、オモチャ、もはや何でもありという状況。これらの多くが水没したのだから影響たるや莫大である。自動車業界は復活しつつあるものの、その他の業界についていえば、完全復活までもう少し掛かりそう。

 今後どうなるか?自動車メーカー首脳陣に質問してみたところ「撤退するつもりはありません」。タイは政治や経済、文化的に日本と相性良い。ここにきて賃金レベルの上昇も見られるが、それを考えてもタイの魅力は大きいという。ただし2度と洪水被害に合わないような対策を練るそうな。


 水没したアユタヤのロジャナ工業団地は周囲に高い堤防を設置するよう動き始めている。川に堤防を作るとなると巨額の予算が必要となるが、工場団地の周囲に限れば容易。タイ政府も前向きで、早ければ2012年の洪水シーズンまでに間に合わせるというから早い動きである。

 そればかりか円高を回避するためタイに工場建設を進めている企業が驚くほど多い。参考までに書いておくと、タイの1日当たりの最低賃金は2012年4月から40%上がり760円(1バーツ=2.55円換算)。それでも日本の労働コストより大幅に低いため、工場立地として魅力なのだろう。

 12月上旬時点では大半の地域から水が引いていた。被災の痕跡を至る所に残しているけれど、3mほど水没した被災地さえ90%くらいの店で営業を再開をしていた。日本を襲った大震災で世界中が「耐える美しさ」を学んだと言われる。今回のタイの洪水からは「前向きの姿勢と明るさ」を見習いたい。