国沢光宏のホットコラム

2020 クルマ&バイク情報

Vol.198「変速機の歴史と今後」

クルマをエンジンで走らせるようになった時から変速機の歴史も始まった。エンジンというパワーユニットは停止状態から出力を出せる蒸気機関やモーターと違い、回っていなければパワーを出せない。また、回転数が高くないと絶対的な出力も追及出来ない。一方、車輪は止まっている。「変速機」と「クラッチ」を組み合わせなければなりません。

黎明期は多段ギアとクラッチによるマニュアルミッション。やがて多段ギアとトルクコンバーターを組み合わせたATが登場し、長い間スタンダードになっていた。しかし!スクーターのようにプーリーを使う無段変速CVTが登場するや、急激にシェアを伸ばし始める。そうこうしているうちに、ハイブリッド車も出てきた。

ハイブリッド車はクラッチを使わずモーターで走り出すことも可能。さらにモーターと多段ギアの変速機を組み合わせたタイプも出てきた。今や150年になろうとするエンジン付き自動車の歴史の中で、もっとも変速機のバリーエーションが多いと考えてよかろう。ただ遠からずモーター主流で走るようになるため変速機は不要になると考えていい。ということで現役でクルマのハンドルを握っている人は、大袈裟に表現すると「人類で最も多い変速機を楽しめる世代」なんだと思う。加えてマニュアルミッション+クラッチの組み合わせは、ハイブリッドや電気自動車の普及で絶滅危惧種になってしまった。以下、次世代の主役となる変速機と、今のうちに味わっておくべき変速機を紹介したいと思う。

まず主役となる変速機だけれど、おそらく「無し」が普通になる。電気自動車や日産e-POWERのような「発電エンジンを搭載した電気自動車」の場合、すでにモーターで直接車軸を駆動している。現在使っているモーターの特性は停止している時に最大トルクを発生する。バッテリーまたは発電機によって作られた電力をモーターに流すだけでOKである。

2位は「リダクションギア」だと予想している。発進時から最大トルクを発生するモーターながら、高回転域になると効率が悪くなる。そこで「高」と「低」の2段切り替え式リダクションギアのニーズも出てくる。すでにトヨタのハイブリッド車に採用され始めていて、今後は電気自動車やPHVにも拡大していくと思う。もちろん自動制御です。

次期型フェアレディZは日本車最後のマニュアルか?

次期型フェアレディZは
日本車最後のマニュアルか?

次世代を担うだろう燃料電池車も変速機は使わないです

次世代を担うだろう燃料電池車も
変速機は使わないです

絶滅危惧種の筆頭はマニュアルミッション。今や世界規模で厳しい燃費規制が始まっている。規制をクリアしようとすれば、エンジンにモーターを組み合わせなければならない。もちろんマニュアルミッションで操作することも技術的に可能ながら、燃費効率という点で難しくなってしまう。理想的な変速タイミングとエネルギー回生が出来ないためです。

したがって新規開発車種でマニュアルミッションを採用してくるケースは“ほぼ”無くなると考えていいだろう。そういった点からすると先日発売されたトヨタ『GRヤリス』や次期型『86』、これまた先日デザインを発表した次期型『フェアレディZ』あたりが日本車最後のマニュアルミッションになる可能性が大きくなってきました。

DCTなどと呼ばれるツインクラッチATも絶滅危惧種といってよいでしょう。日本車だとホンダのハイブリッド車や日産GT-R。輸入車はVWなどが採用している変速機。2組のギアを持っており、例えば片側が1速3速5速。もう一方は2速4速6速になっている。1速でスタートしたら、もう1組を2速にシフトしておき、瞬時に切り換えます。

間断なくギアチェンジ出来ると言うことで話題だったものの、加速中にアクセルを戻すとどちらのギアを選んでいいのか電子制御が迷ってギクシャクしたり、耐久性に問題が出たりするなど徐々に採用されなくなってきた。DCTの軽快な加速感が好みなら、弱点を承知の上、今のうちに味わっておくといいかもしれません。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

PAGE TOP