国沢光宏のホットコラム

2018 クルマ&バイク情報

Vol.176「ドアミラーの変遷と発展」

レクサスES300はドアミラーの位置にカメラを置き、車内の液晶モニターに映像を見せる『デジタルアウターミラー』なる技術を採用してきた。外観デザインや、車内に設置したモニターの位置、ミラーより低い解像度など工夫の余地を残しているものの、夜間の視認性確保や、普通のミラーだと見えない部分を表示出来るなど、メリットもある。

バックミラーの機能といえば、説明するまでも無く「後方の状況を確認すること」である。ミラーの無い車両をイメージしてみて頂きたい。車線変更する場合、身体を捻って後方の安全確認を行うことになり、時間も掛かる。そもそも常時継続的に後方の交通状況をチェックすることなど出来ないです。そんなバックミラーは、いつから存在するのか?

海外や日本の文献や写真を探してみると、1950年代まで車体の外側に装着されるバックミラー(ルームミラーはそれ以前の車両にも付いている)は任意だったようだ。トヨタ博物館に展示されている初代クラウン後期型(1960年式)を見ると、バックミラーが付いていない。ミニクーパーやVW、シボレーなど外国車もまちまち。

1962年発売の2代目クラウンにはフェンダーミラーが付いている。当時の車両運送法で、なぜか「ボンネット付きの車両はフェンダーミラー以外認めない」と明記されていたからだ。なぜそうなったかという理由を探したけれど、根拠は見つからず。すでに欧州もアメリカもドアミラーが主流。フェンダーミラー車は超少数派だった。

フェンダーミラーとドアミラー、どちらが視認性良いかと言えば、見える画像の大きさや画角を含め、圧倒的にドアミラーだと思う。安全面でもドアミラー優位。安全性が向上するならどんなことだって対応するボルボですら、終始一貫ドアミラーを採用していることからも解る。我が国は輸入車に対してまでフェンダーミラー装着を義務付けた。

フェンダーミラーは視認性が悪いだけでなく、体格の違う人に合わせたクルマだと、誰かに動かして貰わないと(電動ミラーは高額車だけだった)1人で調整出来ない。気温差でミラーが曇った様なときだって、簡単にぬぐえなかった。明らかな非関税障壁になっていたと思う。折しも貿易摩擦問題で撤廃を迫られ、渋々解禁になる。

レクサスES300のデジタルアウターミラー

室内モニター

解禁は1983年のことだった。ドアミラーは基本的に視認性が高くデザイン的にもシンプルだったため、以後、新型車でフェンダーミラーを採用するモデルは皆無(例外はタクシー仕様車。なぜか最新型のJPNタクシーもフェンダーミラー)。そればかりか、フェンダーミラー車も市販されていたドアミラーに交換できたため、急速に姿を消す。

そしてデジタルアウターミラーが登場してきた。メリットは外側に張り出した大きいミラーを無くせることと、全周に渡る視界を確保出来ることである。将来的には急速に迫ってくる車両や、危険物を認識し警告するなどの光学式ミラーで出来ない機能を組み込むことも可能。将来的に普及する技術になること間違いないと思う。

デジタルアウターミラーの課題は、老眼だと見えにくい点だろう。光学式ミラーは実像が鏡面に映っている。80m離れている物体なら、80m先に焦点を合わせれば良い。前方を見た直後にミラー見ても違和感なし。デジタルアウターミラーはスマホの液晶画面を見るのと同じ。画像を映す液晶画面は、目から50cmより近い場所にある。

遠方を見た直後に50cm先の液晶画面を見ると、早ければ40歳から始まるという老眼だと厳しい。この課題、物理的な事象から来ているため、抜本的な解決策が見つかっていない。といったことを考えればデジタルアウターミラーの全面的な採用は少しばかり難しいかもしれません。これも技術が解決してくれるか?

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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