国沢光宏のホットコラム

2016 クルマの豆知識

Vol.151「慣らし運転は絶対に必要?」

最近あまり「慣らし運転」について語られなくなった。「慣らしは絶対必要」という人も居れば「今のクルマに使われている部品は精度が高いため最初から普通に乗って問題ない」という人も。結論から書くと10万kmくらいまでなら慣らし運転しなくたって壊れないと思う。といったことを100も承知の上で、慣らし運転をすすめておく。

なぜか?精度の高い部品を使っていても、やはり金属と金属が摺動(擦れて動く、という意味)する部分で「フリクション」と呼ばれる抵抗が生じるためだ。最も解りやすいのはサスペンション。新車時と、1000km走行時、そして3000km走行時を比べたら明らかに違う。新車時に硬いと思っても、徐々に滑らかになっていく。

足回りに使われているダンパー。

ちなみに足回りで最も大きい摺動抵抗となるのは『ダンパー』と呼ばれる部品。滑らかに動くように自動車部品の中でもTOPクラスの工作精度を持たせ、上質のメッキもしている。そんな部品でも、1000kmと3000kmで全く動きが違ってくるほど。ただし足回りの慣らしは不要。走っているうち、自然に滑らかになる。

慣らし運転を最も必要とするのは、エンジンを始めとした駆動系だ。まずエンジン。構成されている部品が数多いだけでなく、使われてる素材も多岐に渡る。エンジンの本体部材を見るとアルミ合金。シリンダー内側(スリーブと呼ばれる)が鋳鉄。クランクシャフトは鍛造の金属。アルミ製のピストンといった具合。

こういった金属はそれぞれ熱膨張率や、膨張するまでの時間が異なる。エンジン始動直後から強い負荷を掛けてしまうと、熱膨張の早い素材から先に激しくすり減っていく。暖まり、設計通りに膨張してから動かしてやれば、均一に減っていく。といったことをジックリやっていくのが慣らし運転だと思えばいいだろう。

変速機やギア類も同じ。噛み合った面に少しずつ「あたり」を付けていった方がキレイに減っていく。レーシングカーのように市販車より遙かに精度の高い部品を使い(全ての部品を計測チェックしてから組む)、圧倒的に潤滑性能の高いオイルを使っているエンジンや変速機ですら、入念な慣らし運転を行っているほど。

走行774km。1000kmまでは慣らしを。

といっても慣らし運転の方法は難しくない。走行500kmくらいまでの間、エンジン始動したら1分程度暖気運転し、走り出して5分くらい回転を押さえて走ればOK。その後、100kmくらい毎に、使う回転数を少しずつ上げていく。タコメーターがあるなら、500kmまでレッドゾーンの半分まで使い、100km毎に500回転づつ上げていく。

1000kmでエンジン系の慣らしは終わったと思っていいだろう。キッチリ慣らしを行ったエンジンなら、1万kmくらいから“乗り心地の向上”と同じく本来のパワーと燃費になり、オイル交換さえサービスマニュアル通りに行うことことにより、15年/20万kmくらいまで元気いっぱいに回ってくれる。変速機も20万kmくらい平気。

ちなみに、十分にあたりのついた1万kmぐらいで、エンジンの摺動抵抗を低減する効果のある「デュアルブ」を添加すれば、驚くほど長い時間、良好なコンディションを保ってくれる。新しいエンジンに入れるとあたりが付くまで長い時間掛かってしまうからだ。逆に考えると、それくらいエンジンの摺動抵抗を少なくする効果を持っている。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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