国沢光宏のホットコラム

2014 ラリー参戦記

Vol.131「ラリー参戦記2014inタイ」

競技車両のエンジンというのは壊れないようなパワーだと“速さ”で勝負にならず、かといって無理にパワー出して壊れたら、当然ながら勝つ権利を失ってしまう。私のようなプライベーターは、そのあたりの塩梅がとても難しい。一般的に予算無ければ、パワーは諦めて信頼性を重視します。

ということで、今年のタイ国キングスカップ(日本での天皇杯に相当)に出場したインプレッサのエンジンは、パワーは出していない。具体的に書くと『モーテック』と言う競技用コンピューターのマップを「信頼性」に振っているのだった。低い回転域での過給圧をあまり上げず、高回転域は濃い燃料を吹く。

低い回転域で過給圧を上げなければノッキングを防げるためエンジンを壊さないし、高い回転域で燃料を濃くしてやれば、ガソリンが気化するときに奪う熱で燃焼室を冷やせる。市販車に近いセッティングだと思えばよかろう。その代償として、ライバルより低いパワーで戦わなければならない。

ちなみに今回は200km/h以上出るはずの長い長い直線で187km/hしか出なかった。低い回転域からの立ち上がり加速も、本番前に行われるテスト走行で計ってみたらライバルと比べ明らかに遅い。同じ速度でコーナーを曲がっているのに、ブレーキ地点の速度が5~10km/hも低いのだ。

もちろん優勝争いでなく「楽しむこと」が優先される完走狙いなら、そういったエンジンで全く問題なし。しかし! 今回のラリー、足回りのセッティングが完璧だったこともあり、競技が始まるや3つ目のSSでTOPに立ってしまう。最初から優勝を意識した走りをしなければならなくなったワケです。

こうなるとエンジンの「機械部分」に負担を掛けなければならない。燃料を濃くし、過給圧を下げればピストンやバルブは壊れにくく出来る。されど結果としてパワーは出ないため、仕方なく高回転域まで引っ張って使うことになってしまう。潤滑や冷却という点からすれば、むしろ厳しい状況。

しかも外気温は34度を超えている。エンジンの使用環境としては極限だと思う。そこで今回、過酷な使用環境からエンジンを守るためKUREのプレミアムオイル添加剤『デュアルブ』を使った。ちなみに2010年にタイ国選手権でシリーズチャンピオン獲った時にはモーターレブを使い、純正オイル+モーターレブでエンジントラブル無し!

次のコーナーまでにシフトアップするか、同じギアのまま無理して引っ張るか、というケースは、エンジンに負担を掛ける「同じギアのまま高回転を使う」を選ぶという厳しい使い方をしたのだけれど、全く問題なし! というか、全開走行の後も水温は常に安定してました。

タイ国王杯 優勝

加えてターボエンジンの場合、タービンの潤滑もエンジンオイルで行っているのだけれど、これまたトラブル無し。一般的に競技に使うと1000kmが寿命と言われるタービンながら、すでにそれ以上使っている。激しい使い方の競技でトラブル出なければ、日常使いなら余裕だと思う。

レースの結果は何と! 秒差での勝負を2日間に渡って続け、逃げ切ってしまいました。コンピューターのマッピングによるパワー不足に終始悩まされたものの、それ以外は全く順調。国際競技なので、表彰台の真ん中は日の丸&君が代であります。「諦めなければ良いこともある」とシミジミ感じました。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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