国沢光宏のホットコラム

2017 クルマ&バイク情報

Vol.155「アメリカと日本の人気車種の違い」


アメリカで最も売れているクルマといえば、多くの人が『トヨタ・カムリ』だと思っているかもしれない。確かに乗用車のカテゴリーで言えばカムリなのだけれど、クルマという大きなワクだと『フォードFシリーズ』という全長5mを超えるピックアップトラックが最も売れているのだ。

価格も高く、売れ筋グレードで400~500万円といったイメージ。我が国を見ると、乗用車のカテゴリーではプリウスやアクアがここ数年ベストセラーカーになっている。けれどクルマという大きなワクではホンダN BOXなど軽自動車に負けることも多い。こちらの平均価格帯は150万円前後。

つまりアメリカと日本で人気車の価格帯が全く違う。依然としてアメリカの生活は裕福なのだ。リッター10km/Lも走らない、日本のマイクロバスと同じくらいの大きさを持つクルマを、毎日の足にしている。そんなことでアメリカの自動車メーカーは伝統的に大きなクルマを作るのが得意。

逆に1台150万円くらいでしか売れないコンパクトカー作りを苦手とする。ここまで読んで「大きなクルマを小さくすればいいだけでは?」と思うかもしれない。ところが小さいクルマも大きいクルマも部品点数は同じ。だったら150万円で売る車より400万円で売るクルマを作った方が利益率が高い。

もちろんコストダウンして利益を確保しようというチョイスもある。今まで失敗してきたアメリカ製のコンパクトカーは、コストダウンが品質の低下に直結してしまい、全て失敗してきた。そんなことからアメリカの自動車メーカーは、もはやコンパクトカーを独自開発していない。

GMはドイツのオペルや韓国で開発したクルマを世界的に販売しているし、フォードもヨーロッパ・フォードというフォードの子会社がコンパクトカーの開発担当になっている。クライスラーの場合、イタリアのフィアットにコンパクトカーは任せてしまい、自社開発を全く行っていない。

アメリカのクルマを日本に持ってきて売れるだろうか?コンパクトカーについてはハッキリ「売れない」と考える。未だにアメリカの自動車メーカーが開発したコンパクトカーは日本車と比べ劣っているからだ。ヨーロッパ・フォード開発の『フォーカス』も日本で売れなかった。

参考までに書いておくと、『トヨタ・クラウン』などはアメリカ車のような雰囲気だからアメリカで売れるのではと考えられるが、調査など行うと全く人気がないという。アメリカ人からすればフォーカスとマツダ・アクセラが同じように見えるらしい。このあたりの微妙な好みの差は案外大きい?

魅力のあるアメリカ車といえば、やはりアメリカで売れ筋になっているピックアップトラックや、大型車である。試乗してみると私のようなクルマ好きでも「素晴らしい!欲しい!」と思う。けれど日本だと巨大。しかも500万円という価格を出すなら、他の魅力的なチョイスも出てくる。

ということで、日本でアメリカ車を数多く売るのは基本的に難しい。ただ日本にもアメリカ車に乗りたい人はいるし、年間1万5千台程度という現在の販売台数を50%増しにする程度なら十分可能だと思う。その場合、魅力の薄いコンパクトカーでなく、アメリカ車の得意分野を持ってくるべきだと考える。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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