国沢光宏のホットコラム

2016 クルマ&バイク情報

Vol.153「CO2排出量削減問題と日本のEV車の未来」

ガソリン価格が落ち着き、二酸化炭素の問題が声高に語られなくなったこともあり、電気自動車の普及は踊り場を迎えている。

電気自動車 日産リーフ

三菱アウトランダーPHEVと
ボルボXC90 PHV

世界初の量産電気自動車である三菱自動車『i-MiEV』の存在感は“ほぼ”無くなってしまい、続いて登場した日産『リーフ』の販売も伸び悩んでしまった。

そんな状況の中、トヨタは突如、電気自動車の開発チームを作ったと発表した。驚いたことに豊田章男社長自らプロジェクトのリーダーとなっており、さらに加藤副社長と寺師副社長が統括役員。クルマ作りをプリウス/プリウスPHVのチーフエンジニアだった豊島氏が担当するという強力な布陣である。

この4人が揃えば、何でも実現できると考えていいだろう。逆に少数精鋭で電気自動車を作っていこうという狙いでもある。もちろんスピードも要求される。早ければ2017年の東京モーターショーにも市販を前提としたプロトタイプを出展する可能性大。トヨタの本気度がうかがえる緊急プロジェクトだ。

なぜ販売順調と言えない電気自動車の開発に本腰を入れるのか?理由は簡単。世界規模で考えれば間違いなく電気自動車の時代がやってくるからに他ならない。あまり報道されていないものの、京都議定書より厳しい二酸化炭素の排出量削減を盛り込んだパリ協定が発効した(達成目標は2030年)。

未だパリ協定を批准していない日本の削減目標は定まっていないものの、このままだと「2013年比で26~30%削減」という信じられない数値を飲まされる可能性大。日本は京都議定書の6%減ですら達成できず、巨額の二酸化炭素排出権料を支払うことになる。このままだとパリ協定も遵守できまい。

実際、パリ協定で1990年比40%減が決められたドイツなどは「2030年までに化石燃料を使う乗用車の新車は販売を停止する」という議会案が通っている。2005年比で25%削減を2025年までに達成するという約束をしたアメリカも電気自動車の普及に全力で取り組む方向。日本も守らなくてはならない。

ちなみに守れなかったら排出権料を支払わなければならず、かといって「不可能だ」とパリ協定を批准しないと、規定以上の二酸化炭素を排出して生産した工業製品ということで輸出禁止措置が適用されると思われる。絶対に守らなければならない国際協定なのだ。ということで電気自動車は必ず必要。

例えばクルマ1台分のガレージの屋根に太陽光発電装置を設置すると、リーフクラスのクルマが年間1万km程度走れるだけの電力を作れる。クルマを生産する時に使うエネルギーも太陽光や風力など使って削減することで、家庭から排出される二酸化炭素の量を簡単に半減できてしまう。

ここまで読んで「ハイブリッド車にすれば燃費は半分になるのでは?」と思うかもしれない。確かにヨーロッパのように1990年比ならハイブリッド化も有効。しかし日本はハイブリッドや燃費の良い軽自動車が普及している2013年比なのだった。ここから30%減らそうとすれば電気自動車しか無い。

そんな事情で開発される電気自動車は、当然ながら価格も航続距離も現在のガソリン車の代替にならなければ意味を持たない。つまりハイブリッド車と同じ程度の価格でいながら、実用航続距離で250~300kmくらいを目標するということである。どんなクルマになるのか今から楽しみだ。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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