国沢光宏のホットコラム

2018 クルマの豆知識

Vol.171「壊れて動かなくなったクルマのその後」

知人が16年間乗っていた輸入車がメンテナンスのミスでオーバーヒート。ディーラーに相談すると、エンジンを修理するとなればけっこうな金額になると言われたそうな。修理したら中古車相場より高く付くような事故やトラブルを起こしたクルマはどうしたらいいだろうか?

上のケースの場合、ディーラーに引き取ってもらったら廃車処分費として3万5千円かかるという。そんな時に役立つのが最近増えてきた「事故車や故障車を買い取ります」という業者である。実際、知人のクルマも問い合わせてみたところ、6万7千円になったとか。

事故車や故障車に代表される「動かないクルマ」は買い取られた後、どうなる?取材してみたら、有効に使われていることが判明した。紹介しよう。まず16年前の輸入車のような車両。この年式になると、海外でも修理して販売することは難しい。

結論から書くと、そのまま輸出されるという。日本で購入したのは2002年だけれど、同じタイプのモデルは11年前の2007年10月まで生産されていた。国によってはまだ現役真っ盛りのため、部品のニーズも多い。丁寧に部品を取り外していくと、1台分で数十万円分になる。

エンジンの焼き付きや変速機のトラブルなどは修理しようとすると非常に高くなってしまうけれど、その他の部品だけを利用するので壊れていても問題無い。そもそもエンジンや変速機などの消耗品は部品としての価値が無いため、壊れていてもマイナス材料にならないということなんだと思う。

もう少し年式の新しい事故車などはどうするのか?さらに多くの用途があるという。追突して前部に損傷を受けた車両と、追突されて後部に損傷を受けた車両であれば、半分に切り、輸出。半分に切られたクルマは部品として輸出できるため、関税も低い。現地で前半分と後ろ半分を繋ぎ1台にする。

そんなことが出来るかと思うだろうが、切られて溶接されたクルマを見ると、驚くほど上手に出来ている。昔は日本でも行われていたというが、最近「むしろコスト高になる」ということで、すっかりやらなくなった。

WRX S4 日本だと50万円以上の損傷がタイだと3万円

また、板金塗装コストにしても日本と比べ圧倒的に安い。損傷の少ないクルマであれば輸出し修理して売るということも可能。私もタイ国のラリーでコースアウトしてクラッシュし、日本なら最低で50万円以上掛かるほどのダメージを受けたが、現地で修理したら塗装まで入れて3万円!

いい加減な仕事かと言えばそんなことない。そもそも普通なら2万円くらいだという。現地の人に「少し高いが一流の職人に頼むか?」と聞かれ、Yesといったら3万円になり、その代わり普通の人なら修理した場所が解らないほど見事な仕上がりだった。もちろん全て板金だ。

中古車相場100万円の車両で、大きな事故に遭うと修理コスト(修理中のレンタカー代なども保険会社の負担になってしまう)の方が高くなるため日本ではなおして売っても損。しかし、10万円で買い取り、10万円で輸出し、現地に持って行き10万円でなおせば(日本だと板金修理を断られるアルミのボンネットまで叩いてなおしてしまうから驚く)、現地で2~3倍くらいの利益を乗せて売れる。

使えるものを使う、というのは資源のためにも正しいと思う。加えて誰も損をしない。自分のクルマが動かなくなったら、ダメもとで事故車や故障車の買い取り業者に問い合わせてみたらいい。ディーラーなどで廃車にしてもらうより有利な条件で済む可能性は大きい。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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