国沢光宏のホットコラム

2016 クルマ&バイク情報

Vol.144「普及するか?ミラーの無い車。」

現在、クルマ後方の状況を確認するためミラーが3つ設置されている。そのうち、室内に取り付けられている『ルームミラー』は機能しなくても問題ないとされてます。荷物を積めば見えなくなることだってあるし、そもそもトラックなどルームミラーを装着しても物理的に見えません。

ということから、すでに日産は後方に向けてセットしたカメラで撮影した画像を、ルームミラー形状の液晶画面に表示するという技術を採用している。ただし、外部に装着してある『ドアミラー』は本物の鏡を使わなければならないという法規が適用されるため、液晶画面にすることは出来ない。

そんな状況の中、国交省は早ければ2016年半ばから全てのミラーを液晶画面表示にすることを認める方向で動いているという。つまり「バックミラーの代わりにカメラを取り付け、その映像を液晶画面などに表示してもいいですよ」ということ。果たしてどういったメリットがあるのだろうか?


残念ながら現時点では無いと思う。現在の技術だと、人間の目より解像度の高い画像を液晶に映すことが出来ないからだ。写真はバックモニターの映像である。バックミラーより粗い画像だけれど、同じような「画像の劣化」が起きてしまう。さらに“時差”もある。動きが速いと追いきれない。

ただ、今より処理速度が速くなり、人間の目より優れた画像を表示出来るようになったら素晴らしい技術だと思う。夜間でも明るい画像を表示出来るだろうし、ドライバーの死角になっている斜め後方の状況だって容易に表示させられることだろう。

さらに処理速度を速めることが出来たなら、バックミラーだけでなく前方にも高性能カメラを装備したら良い。歩行者や他の車両が飛び出してきたような時に警告を出したり、自動ブレーキを掛けたりできるようになるからだ。夜間など人間の目より明るい画像を提供してくれることだろう。

今後、大きな社会問題になってくるだろう高齢者ドライバーの安全確保にも有用。常にクルマ全周の画像を処理し、危険と思われる状況になったらドライバーに注意喚起し、それでもブレーキやハンドルなど適切な操作をしなければ自動的に減速など行い、被害を最小限に抑えられる。

メリットはもう一つ。クルマのデザインの自由度が大きく広がると思う。バックミラーの位置はスポーツカーにとって大きな制約になるし、空気抵抗を低くして燃費を改善させたいECOカーからすればバックミラーなど無い方がよい。後方に向けたカメラなら、こういった課題をすぐ解消出来ることだろう。

気になるのはいつ頃から人間の目を超える画像を提供出来るようになるか、だ。もちろんコストを気にしなければ現在でも可能。高額車であれば国交省が認可を決めた直後に装備してくるかもしれません。とはいえ10万円を超えたら普及しない。手頃な価格になるまで10年くらい掛かるか?

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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