国沢光宏のホットコラム

2007 ドライビングテクニック

Vol.37「雪道走行の新常識」

雪道を走る時にベテランでも迷うのが「ギアの使い方」である。今までの常識なら「下り坂では基本的にエンジンブレーキを使う」だった。果たして本当か?

当たり前のことながらエンジンブレーキを使うと、駆動輪にのみブレーキが掛かってしまう。前輪駆動車なら前輪だけ。後輪駆動車は後輪だけにブレーキが掛かるのと同じこと。
滑りやすい路面で自転車に乗った、と思って欲しい。緩い制動なら前輪だけブレーキを掛けても問題なかろう。けれど強くブレーキを掛けたら前輪がスリップする。後輪ブレーキもバランスを崩す。
雪道を走る時のエンジンブレーキは、自転車と同じだと思っていただければよかろう。緩い制動であればエンジンブレーキを使って問題なし。けれど強いエンジンブレーキを使うとバランスを崩し、最悪の場合スピンすることになってしまう。

もう少し具体的に説明しよう。例えば50km/hで走っていたとする。この速度から2速ギアに落とすと、明確なエンジンブレーキを感じるハズ。滑りやすい路面であれば、この段階でスリップしてしまう可能性大。
フットブレーキを強めに掛けて滑ったようなケースなら、ABSが作動。自動的にブレーキ圧のコントロールをしてくれるので、バランスを崩すこともない。
一方、強いエンジンブレーキで滑ってしまうと、バランスの回復は難しい。後輪駆動車ならスピン状態になり運任せということに。前輪駆動車もハンドルが効かない状態のまま真っ直ぐ走ってしまう。ABSより優れた危険回避能力を持つ『姿勢制御装置』(Vol.33を参照)付きのクルマなら、強いエンジンブレーキを併用すると電子制御が効かなくなる。

どうしたらいいか。雪道では「極めて遅い速度域」(20km/h以下くらいをイメージしていただければよかろう)でない限り、2速のエンジンブレーキを使わないことをすすめておく。
といっても難しい操作など不要。普通のAT車なら『L』や『2』レンジをセレクトしなければいいだけ。例えば4速ATの場合、『ODスイッチ』を使って3速に落とす程度で充分。最近多いシーケンシャルタイプのAT(好みのギアを任意で選択可能)も、2速へ入れないようにしよう。
通常の雪道より一段と滑りやすいミラーバーンに遭遇したら、もうエンジンブレーキは使わない方が良い。フットブレーキを柔らかく踏み、ロックしてしまった時はABSや姿勢制御装置に任せればよかろう。
マニュアルミッション車も同じ。エンジンブレーキに2速ギアなど使わず、出来る限り高いギアで走って欲しい。

雪道のドライブをしていて、写真のように「凍っている可能性のある下り坂」に差し掛かったら、まずフットブレーキだけ使って速度を落とす。長い下り坂では、車両の挙動が安定した後、必要最小限のエンジンブレーキを使えばよかろう。

4WD車はどうしたらいいか。これまた同じ。前輪駆動車や後輪駆動車より高い安定性を持つものの、やはり強いエンジンブレーキを使うことは避けた方がいい。
「迷ったらエンジンブレーキは使わない」。これが今の常識であります。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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