国沢光宏のホットコラム

2015 クルマ&バイク情報

Vol.136「クルマのデザインのジレンマ」

自動車という商品にとってデザインは重要である。ところが性能と違い、物理的な優劣や評価を付けられない。「良いか悪いか」でなく「好きか嫌いか」になってしまうからだ。したがって自動車メーカーのデザイナーに「カッコ悪いから売れないと思う」と言えば「それはあなたの好みの問題です」。

ではデザインは全て好き嫌いの問題で片付けられるかとなれば、答えはハッキリと「いいえ」。やはり多くの人がカッコ良いと感じるデザインもあれば、その反対もある。なぜ多くの人がカッコ良いと感じるデザインにしないのだろうか?良いデザイナーを使えばいいのだろうか?

参考までに書いておくと、自動車メーカーのデザイナーになろうとすれば、超難関を突破しなければならない。一番レベルが高いと言い換えてもよかろう。なにしろクルマを開発するのに数百億円規模掛かる。売れ行きに決定的な影響を与えるため、メーカーも優れた人材を確保しようとする。

だったらあえてカッコ悪いデザインを採用しているのかと言えば、そんなこともない。各社「良いデザインだ」と判断しているんだと思う。興味深いことに、誰でもカッコ良いと感じるデザインは難しくないという。ただし、「カッコ良い」だけを考えてデザインすると、必ず何かに似てしまう。

シルエットだけでは見分けが付きにくい
航空機

クルマの種類は現在のモノコックボディになって以後、数えられないくらい存在する。加えて、クルマという“道具”の宿命で、タイヤ4つ。人が乗れるキャビンを持ち、エンジンを搭載する場所を確保し、衝突安全性確保のための車体先頭スペースを確保したら、シルエットが似てしまう。

機能が大雑把なスタイルを決めてしまうという点で航空機のデザインにも共通することながら、過去の機種数は全く違う。カッコ良いクルマというだけの概念でデザインすると、必ず過去の名車に似てしまうとのこと。今までに無いデザインテーマを探さなければならないのだ。

ヨーロッパのメーカーのように(最近のマツダも同じ)、全てのモデルに同じフロントグリルを採用したり、全体のフォルムを共通にするという手もある。これなら一つのテーマで済む。ところが「全く新しいデザインで」となったら、本当に難しい。日本車は難しい道を選んできたということです。

オリジナリティを重視したフロントグリル

また、小手先の変更でデザインをまとめようとすると、写真修正したプリクラの顔のようになってしまい個性が無くなる。美男美女なら誰でもモデルや俳優やタレントになれるワケではない。クルマのデザインも同じ。といったことを考えると、なかなか手強いと言うことが理解して頂けると思う。

以前、デザイナーと論議になり「だったら描いてみたらいかがですか?」。面白いということで試したら、途方に暮れたことを思いだす。自分はもちろん、絵心がありクルマ好きの知人にも描いてもらったのだけれど、似てるか、個性無いかのどちらかになってしまった。

最近中国の自動車産業が急伸している。やはり大きな課題となっているのはデザインである。といったことを考えながらクルマのデザインを見ると、今までと全く違ってくると思う。それでも「カッコ良い」と「カッコ悪い」があるからクルマのデザインは奥深い。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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