国沢光宏のホットコラム

2004 モーターショー

Vol.1「グッドウッド・スピードフェスティバル」

イギリスのグッドウッドという場所で毎年「スピードフェスティバル」なるビンテージレーシングカーのイベントが行われている。車両の展示だけでなく、往年のドライバーが当時のレーシングカーを走らせるのだからクルマ好きにとっちゃ辛抱たまらない。しかもキッチリ整備されているレーシングカーは、現役当時の音まで聞かせてくれるのだ。映画「栄光のル・マン」に出てきたポルシェ917Kや、アリタリアカラーのランチァ・ストラトス、今は亡きバリーシーンのサイン入ったスズキRGB、新しいところではホンダV10エンジンを積んだマクラーレンF-1の「生きている姿」を目の前にした時の気分たるや、筆舌に尽くしがたいほど。

ちなみに1966年に活躍した「RC166」(250cc6気筒)は、1万6千回転まで回った、と言う。当時の音を聞かせようとすれば、やっぱり1万6千回転回さなければならない。ホンダのピットに行って聞いてみたら「もちろん回しています」。実際、ホンダのモーターサイクルが走るや、10万人以上入っている広大なグッドウッドの雰囲気が引き締まる感じ。前後して走る当時のライバルと音質からして違うのだ。しかも見ている人の感動を誘うような「良い音」。「RA300」(1967年のF-1。3リッターV12)も同じ。ひときわ高い音域なのである。だからホンダミュージックって言われたんだな、と思う。

40年も前のレーシングエンジンなのに壊れないですか?と聞いてみた。すると意外なことに「組立方法や使われている技術は今以上に高いレベルなので苦労します。ただ素材とオイルが大幅に良くなっており壊れることはないですね」。これ、他のピットで聞いても同じような答え。素材で言えば純度が高くなったり、加工精度が上がったり、組み込む前に不良部品の検査が出来たり(X線などで内部のクラックなどチェック可能)するため、信頼性も高くなっているそうな。オイルの性能向上はさらに顕著で、新しいコンセプトの添加剤(オイルの性能は添加剤で決まると思っていい)により、当時なら焼き付くようなケースさえ耐えてしまうとのこと。

60年前、日本は「疾風」や「烈風」といった世界トップクラスの性能を持つ戦闘機を作る技術力を持っていた。しかし戦争で良質のオイル添加剤や燃料が無くなると、エンジントラブル続出となってしまう。戦後アメリカに運ばれ、規定の品質を持つオイルと燃料を入れ飛行テストさせたところ、向こうの技術者が驚くような性能を出したそうな。これは現在の自動車にも言えること。普通に走るなら普通のオイルや燃料でいい。でもエンジンが持つ性能をフルに引き出そうとすれば、やっぱり「効果のある」添加剤を加えてやるといいんじゃなかろうか。あれこれ試して見るのも、クルマ好きにとってみれば楽しい「迷い」だと思う。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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