スペシャルインタビュー

今回は、TVドラマや映画、舞台などさまざまな分野で活躍する日本を代表する殺陣(たて)師の中川邦史朗さんです。

「観る人が感動できる格闘シーンを、
いかに安全に構成するかが殺陣師の仕事です。」

Q:「殺陣」という言葉は時代劇などでよく耳にするのですが、「殺陣師」というお仕事は、どのような内容なのでしょうか。

中川邦史朗さん(以下/中川):殺陣というと、一般的には時代劇の格闘シーンのことを指しますが、実際には技斗(ぎとう)あるいはアクションなどとも言いまして、時代劇、現代劇に関わらず格闘シーン全般を指します。その演出を担当するのが「殺陣師」です。

Q:剣術シーンだけでなく、素手や組み手なども含んだ格闘シーン全般ということですね。

中川:そうですね。例えば、私たちの場合は時代劇の夫婦げんかなども演出することがありますね。
奥さんが怒って茶碗を投げるといった場合、どう投げて、どうかわせば、自然な夫婦げんかを見せられるか、安全を考慮しながら演出をします。

Q:やはり現場の安全をよく考えられているのですね

中川:そうですね、殺陣というのは格闘シーンですから、刀などの武器を使うことも多いです。竹光(たけみつ)とは言え、先は尖ってますので、下手に扱えば相手の目や鼻、皮膚の薄い喉などに刺さり大怪我に繋がることもあります。安全というのは私たちにとってもっとも重要な要素の1つです。
とは言え安全だけを考えていると、迫力やリアリティ、スピード感などが削がれてしまいます。観る人が感動できる格闘シーンをいかに安全に構成するかが殺陣師の重要な仕事と言えます。

「憧れの林邦史朗先生に教えていただけるのが
何よりの喜びでした。」

Q:なぜ殺陣師を目指されたのでしょうか。

中川:子供の頃から歴史が好きで、その影響で時代劇もよく観ていました。特に史実を重視したテレビドラマが大好きで、いつか自分もあんな役をやってみたいと思っていたんです。
その思いが高じて俳優の養成所に通うようになったのですが、そこで殺陣の指導をしてくださったのがテレビドラマで殺陣の演出などを手がけられていた若駒プロの林邦史朗先生でした。

Q:憧れの方ですね。

中川:そうですね。従来の型にはまった殺陣ではなく、リアルで迫力のある格闘シーンを作りだしてそれまでの殺陣の概念を変えた方ですから、歴史好きから俳優を目指していた私としては、本当に憧れの方でしたね。

Q:その出会いがきっかけで殺陣師を目指されたのでしょうか。

中川:林邦史朗先生に誘っていただいたんです。林先生が定期的に養成所で指導してくださるということで嬉しくて毎回楽しみにして行っていたのですが、それが先生の目にとまったのでしょうか「若駒で一緒にやってみないか」と誘ってくださいました。

Q:プロの殺陣師の世界に入って苦労されたのではありませんか。

中川:最初は鍛え抜かれた先輩たちが汗水流して真剣に取り組んでいる場に入っていくことに緊張もしましたが、とにかく林先生の下で殺陣を学べることが嬉しくて、苦労と言うより毎日が楽しかったですね。
技術が上達していくのも楽しかったのですが、林先生にいつでも直にいろいろ尋ねられるのが嬉しかったです。今のこの立廻りはどういう気持ちなのか、何を意図しているのかなど、疑問に思った時にその場で聞けるのがとても役立ちました。

「立廻りの技術だけでなく、物語の時代や人物を
さらに掘り下げることも大切にしています」

Q:型としての殺陣ではなく、演技としての殺陣ということでしょうか。

中川:やはり、子供の頃から歴史ドラマに傾倒していたからでしょうか、アクションとしてカッコいいことも大切なのですが、物語の中での立廻りの意味のようなものが気になるんです。
以前に俳優さんと何手か交わらせていただいた時に、刀の振り方1つでも思いを込めるというのはこういうことかと学ばせていただきました。
立廻りの技術だけでなく、それぞれの役柄による立廻りの姿も大切だと思います。

Q:いろいろと勉強もされているのでしょうか。

中川:勉強というしっかりしたものではありませんが、常にいろいろな歴史的なものには目を向けるようにしていますし、気になることは調べるようにしています。その上で実際に仕事になった時に、物語の時代や人物をさらに掘り下げるようにしています。

「殺陣の主役が常に美しくあるために、
KURE 5-56 は必需品です。」

Q:お仕事でKURE 5-56 をお使いになることはありますか。

中川:仕事でKURE 5-56 を使うのは、主にサビ落としが目的ですね。殺陣に使う模擬刀のサビ落としによく使います。時代劇の刀は殺陣の主役のようなものですから、アップで映った時にサビがあったら大変なので常に手入れをしています。
他にも手裏剣だとか十手だとか、時代劇の殺陣で使う道具には金属のモノが多いので、KURE 5-56 は欠かせないです。

Q:日常でもKURE 5-56 をお使いになることはありますか。

中川:自転車だとか自家用車の整備をする時などには欠かせないですね。キツく締まったネジを緩める時などには必ず一吹きしますし、とても身近な存在だと思います。

「本来の殺陣の面白さを
楽しんでいただきたいです。」

Q:今後の抱負などがありましたらお聞かせください。

中川:最近はコスプレをされる若い人たちが時代衣装を着てカッコ良く写真を撮りたいからと言って若駒の道場に通ってくることがけっこうあります。
若い人たちに新しい波が来ているような気もしますから、それに合わせてテレビドラマでも時代劇がもう少し増えてくれると嬉しいです。

Q:殺陣そのものについては、どうでしょうか。

中川:最近はハイスピードで一気にたたみかけるようなアクションが多くなっています。
こうした中で緩急や間合いを重視したリズム感のある殺陣というのが、むしろ新鮮な感動を呼ぶのではないかと思っています。改めて本来の殺陣の面白さを皆さんに感じていただけたらと思っています。

殺陣の世界に新しい動きを作られた先代林邦史朗の名を受け継がれ、さらに次の時代の殺陣を生み出そうとする中川邦史朗さんに今後も注目していきたいです。

Profile

中川邦史朗

中川 邦史朗(なかがわ くにしろう)
1971年 北海道生まれ
1994年 若駒アクションクラブ入所
1999年 若駒入所
2010年よりTVドラマの殺陣補助
2015年 故・林邦史朗より「邦史朗」を襲名
2016年 TVドラマにて殺陣指導

フジアクターズシネマ 指導員、武劇館 師範代、劇団ひまわり 指導員、蔵修館 師範代、テアトルアカデミー 指導員

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