スペシャルインタビュー

第8回は、車イス陸上の選手として数々の日本記録を樹立し2016年の日本代表にも選ばれたトップアスリートの中山和美さんです。

「車イスの生活になっても
スポーツの楽しさは忘れられませんでした。」

Q:中山さんが、本格的に車イス陸上に関わるようになったのは、いつ頃のことでしょうか。

中山和美さん(以下/中山):2007年に脊髄梗塞を発症して、その翌年ぐらいから指導員の勧めもあって車イス陸上を始めました。

Q:車イスの中でもいろいろなスポーツがあると思いますが、陸上を選ばれたのには何か理由があるのですか。

中山:高校の頃にバスケットをしていたこともあって、最初は車イスバスケットなどにもチャレンジしました。元々カラダを動かすことが好きなので、何かスポーツをやりたいと思っていろいろチャレンジしました。そのひとつに車イスマラソンがあって、誘われて10キロのレースに出たのですが、なんだかとても気持ちよくて楽しかったんです。

Q:はじまりは長距離だったのですね。

中山:ハーフマラソンなど、いくつかの大会にも出て3年ほどロードの長距離をやっていました。その後トラック競技を知り少し練習をして出場してみたらそこそこのタイムが出て、その次に参加した大会で日本記録が出せたんです。それで一気にトラックレースが楽しくなってのめりこみました。

「努力しただけハッキリ記録に出る。
それが魅力ですね。」

Q:トラックレースに向いていたんでしょうか。

中山:それは自分ではよく分かりませんが、トラックのレースでは、努力したら努力しただけハッキリとタイムに表れるんですね。マラソンに比べて短距離は1秒を削るのが大変なんです。だからこそいい結果が出た時には大きな喜びがあります。

Q:同じトラックでも、100mや200mと、800mなどでは走り方は違うのでしょうか。

などもしません。ただ800m競技では100m走ったところでオープンコースになるので、その時の位置取りなどに駆け引きがあります。

Q:そこで有利な位置につくのが重要になってくるのですね。

中山:トップに立つと向かい風を一人で受けることになるので、2番目か3番目に付いて、ラストの200mくらいでスパートするのが理想なんですが、身体の大きな海外の選手と戦うと、なかなか思い通りの位置取りはできません。

Q:海外の選手と互角に戦うパワーが必要ということですか。

中山:体格を補うために積極的に筋トレも取り入れています。実際に世界ランクのトップレベルにいる中国の選手などは、同じアジア人ですが身体は大きくとても速いです。確かに身体は鍛えていますが、一概に身体の大きさだけの問題ではなく、身体の使い方も含めた総合的なパワーが必要だと思っています。

「ちょっとした異変が気になって
タイムに影響することもあります。」

Q:競技用の車イスというのは一般的な車イスと違うのでしょうか。

中山:陸上競技用の車イス(レーサー)は、一見すると普通の車イスとはずいぶん違うように見えますが、基本的には変わりありません。小さなハンドルが付いていますが、トラックのレース中に使うことはほとんどありません。カーブなどを回る時はトラックバーというレバーを操作して曲がり、細かな進路調整などは体重移動で行います。

Q:車イスの性能などはレースに影響するのでしょうか。

中山:海外でもトップクラスの多くの選手が日本製を使っています。造りがシッカリしていること、軽いことが日本製を選ぶ理由のようです。素材はカーボンやアルミが使われていますが、素材それぞれに特性があるので、最終的には選手の好みで選んでいるようです。

Q:メンテナンスはどのようにしていますか

中山:ほとんどのメンテナンスは専門の方がシッカリ調整してくれています。走っていて異音がしたりすると気になって走りに集中できないこともあるので、そういう意味でもメンテナンスは大切だと思います。

「日常使っている車イスの整備にも、
KURE 5-56 が大活躍しています。」

Q:KURE 5-56 とはいつ頃からの付き合いですか?

中山:私の父がなんでも自分でやる人で、家のモノを修理したり、ちょっとした家具を作ったりなどもしていたので、KURE 5-56 は子供の頃から当たり前に家にありました。

Q:競技用の車イスのメンテナンスなどに使うことはあるのでしょうか。

中山:競技用のレーサーではブレーキのワイヤーやトラックレバーの可動部など部分的にKURE 5-56 を使っていますが、普段使っている車イスでは、いろいろなところによく使っています。
ストッパーの可動部分や、いろいろな回転部分には時々吹き付けて動きを良くしたりサビの防止などに使っています。

「ひとつひとつの大会を大切にして障がい者スポーツの発展にも寄与していきたいです。」

Q:今後の目標などをお聞かせください。

中山:今年はインドネシアで行われる大会をはじめとして、これから毎年のように国際大会が開催されます。選手の中には、世界大会にピークを合わせるという人もいますが、私はひとつひとつの大会を大切にしていきたいと思っています。特に、東アジアには世界最強の中国選手がいますから、アジア大会といってもそこでの成績は世界に直結します。そういう意味でも2020年に向けてひとつひとつが大切だと思っています。

Q:障がい者スポーツ全体の発展についてご意見をお聞かせください。

中山:大会だけでなく、講演会やイベントなどさまざまな機会に参加させていただいて障がい者スポーツのアピールを行っています。例えば、イベントなどで競技用のレーサーを目の前にすると、多くのお子さんたちがカッコいいと興味を持ってくれます。そうしたことからでも、車イス生活の方が一歩外に出るきっかけになればと思っています。2020年に向けて障がい者スポーツも盛り上がると思いますが、むしろ大切なのはその後だと思います。いつまでも興味が薄れないように盛り上げていく必要があると思います。

障がい者スポーツのトップアスリートとして、世界を見据えて戦い続けている中山和美さん。ご自身の記録向上だけでなく、障がい者スポーツ全体への意識も高く、さらなる躍進に期待が膨らみます。

Profile

中山和美

中山 和美(なかやま かずみ)
1983年千葉県生まれ。
車イス陸上女子100m、200m、400m、800m(T53)日本記録保持者
2013年7月 世界選手権に日本代表選手として初出場
2014年 アジア大会 200m、400m(T53)銀メダル
2015年 世界選手権では女子400m(T53)で決勝進出
2016年9月 世界大会に日本代表選手として出場

PAGE TOP