国沢光宏のホットコラム

2017 クルマの豆知識

Vol.165「自動車の衝突安全性について」

このところ自動車の衝突安全性についての情報が無くなった。安全性と言えば、自動ブレーキに代表される「予防安全」。つまり事故を起こさないようにする技術ばかり。なぜか?新しいタイプの衝突試験を行っていないため、全ての車種で横並びになってしまったからに他ならない。

どんな試験にも当てはまることだが、同じ問題を繰り返し出していれば皆さん簡単に答えられるようになってしまう。衝突試験も同じ。新しい試験項目を次々に作り出していけば車種やメーカーによる差は出るが、10年も同じ内容の試験を出していれば誰だって100点を取れる。

『JNCAP』と呼ばれる国交省の外郭団体で行っている衝突試験の結果を見ても、ほぼ横並び。どのクルマも「安全」という評価になってしまう。5年に一度くらい新しい試験項目を加えるアメリカ『IIHS』の試験ですら、今や日本車だけでなく韓国車も『優』を獲得する車種が続出しているほど。

衝突安全性は本当に横並びか?この点、明確に「No!」と答えておく。好例が前述IIHSで行われている『スモールオーバーラップ衝突』。対向車とすれ違う際、車体前面の25%同士で衝突した状況を想定した試験となる。IIHSによれば、直近ではこの形態の事故で亡くなる人が最も多いという。

そんなことからアメリカで新しい試験項目として始まったのだけれど、当初は「明らかに死亡または重篤なダメージを受けた」というダミーが続出する。やはり危険だった、ということ。当然ながら自動車メーカーはスモールオーバーラップ試験をクリアすべく改良していく。結果、今や新型車の大半がスモールオーバーラップ試験をしても「優」という成績を残すようになった。

スモールオーバーラップ試験で優秀な成績を残したボルボの試験車両は運転席部分がしっかり残っている

国交省のデータより

しかし!この試験、アメリカだけ。日本でも同じタイプの事故は発生しており、命を亡くすケースも多いという。けれどこの試験に未対応の車種も日本で販売されている。

もう少し正確に書けば、アメリカ仕様と全く同じ車体構造を持つモデルはスモールオーバーラップ衝突しても心配ない。けれど、日本国内専用車種の大半が、未対応。スモールオーバーラップに対応させようとすれば、車重とコストの増加を招くからだ。燃費が悪くなり、車両価格も上がる、ということ。

はたまた2018年から世界では当たり前になっている『ポール側突』(横滑りして電信柱に衝突した形態)というモードが日本でも始まるのだけれど、対応しようとすればサイドエアバッグを必要とする。ただサイドエアバッグだけだと国交省が定めたポール側突はクリア出来るものの、十分と言えない。

やはり乗員の胴体を守るだけのサイドエアバッグの他、頭部の衝撃を緩和するカーテンエアバッグも必要。困ったことに基準をクリア出来れば良いと考え、サイドエアバッグだけしか付けない車種も出てきている。様々な状況を考えると、衝突安全性は横並びでないことを理解していただけると思う。

これから新車を買うなら、衝突安全性について言えば玉石混淆だということを認識して欲しい。私なら死亡事故で最も多いと言われるスモールオーバーラップ衝突に対応したモデルであり、同時にサイド&カーテンエアバッグ付きの車種をすすめておく。アメリカでも販売されるモデルなら基本的に安心だ。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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